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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)224号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(実用新案登録請求の範囲)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 拒絶理由の当否について検討する前に、まず、本願考案の内容について本願明細書に記載されているところを概観しておくこととする。

成立に争いのない甲第四号証の一(昭和六〇年八月一〇日付け手続補正書)によれば、本願明細書には、本願考案は、(一) 「硬質心体に発熱線を巻装したものをシースに挿入し、その間隙に絶縁剤を充填してなる棒状シースヒーターの改良に係るもの」(第二頁第三行ないし第五行)であり、(二) 「この種発熱体は長さが二~六mあり且つ外装金属管とその内部に挿入した硬質心体の間隙は一~二mmという微小寸法であり、この長さ(六m)にわたつて全長を硬質心体を外装金属管の中心に正しく保持することは極めて困難あるいは不可能に近いため、前記両者の間隙は箇所によりむらがあり、甚だしきは発熱線が外装金属管に接触して漏電の虞もある。また、外装金属管と硬質心体の間隙に無機絶縁物粉末を充填する場合は前記両者を組合した後、これを直立せしめ振動せしめながら上部より粉末を両者の間隙に流し込むのであるが粉末を細かに観察すれば粒に大小があり、このため粒度の大きいものは下方へたまり、小さいものは上方にたまるという粒度による上下むらがある。また、下方ほど上方よりの粉末の圧力を受けて密につまるため、充填密度は大となり、上方ほど密度は小となり上下による密度むらが生ずる。以上のように間隙むら、粉末の粒度むら、密度むらが相乗効果を発揮してシースヒーターの各所は不規則に放熱するため、棒状シースヒーターとしては完璧な製品ということはできず、また、一箇所に熱がこもつて該個所で断線する虞もある。また、棒状シースヒーターは積極的に放熱量をコントロールしてシースヒーター内部の温度をコントロールして断線等の事故を防止する必要がある。」(第二頁第一〇行ないし第三頁第一五行)という知見に基づき、「上記のごとき不規則な放熱むらを解消し、さらに、進んで必要に応じて放熱量をコントロールできる製品を提供」(第三頁第一六行ないし第一八行)することを目的とし、(三) 右目的を達成するために実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したことにより、(四) 「従来品について前述したごとき間隙むらはなくなる。(中略)従来品のごとき粉末を流し込むとき生ずる粒度の大小によるむらや、上下による密度むらは全く生じない。(中略)積極的に放熱量をコントロールしてシースヒーター内部の温度をコントロールして断線等の事故を防止することができる」(第五頁第一三行ないし第六頁第八行)、という作用効果を奏するものである旨記載されていることが認められる。

2 拒絶理由の第一項について

(一) 前掲甲第四号証の一によれば、本願明細書には本願考案の棒状シースヒーターの用途について記載されていないことが認められる。

ところで、成立に争いのない甲第六号証、第七、第八号証の各一・二、第九ないし第二〇号証によれば、本件出願前に日本国内において頒布された特許出願公告公報(甲第一〇、第一三、第一四号証、第一六ないし第一九号証)、実用新案出願公告公報(甲第六、第九、第一一、第一二、第一五、第二〇号証)、実用新案出願公開公報(甲第七、第八号証の各一)、並びに右各出願公開に係る考案の実用新案登録願書(甲第七、第八号証の各二)には棒状シースヒーターの種々の構造のものや、種々の形態の製造方法が記載されているが、棒状シースヒーターの用途について、甲第六号証公報には核燃料棒模擬発熱体の発熱素子、甲第一一号証公報には化学工業用の投込型電熱器、甲第一五号証公報には各種熱処理用、樹脂加工用、染色加工用等に使用される電熱器がそれぞれ記載されているものの、右以外の公報等には棒状シースヒーターの用途について特に記載はないことが認められる。しかし、甲第六号証、第七、第八号証の各一・二、第九ないし第二〇号証の公報等記載のシースヒーターが工業上加熱を要するところに用いられるものであり、そのことが、本件出願当時、当業者にとつて周知であつたことは当事者間に争いがない。

右認定事実及び争いのない事実によれば、棒状シースヒーターには種々の構造のものがあり、具体的な利用形態も各種のものがあるが、いずれも工業上加熱を要するところに用いられるという点では一致しており、その点は、本件出願当時、当業者には広く知られていたものと認められるから、本願明細書に本願考案の棒状シースヒーターの用途について記載されていなくても、右シースヒーターが少なくとも工業上加熱を要するところに用いられるものであることは、当業者において容易に知り得るところであると認めるのが相当である。

他方、本願考案の前記1項認定の目的及び作用効果がどのような意味内容を有するものであるかは前記認定の本願明細書の記載自体で明らかであるというべきであり、当業者が右目的及び作用効果の意味内容を理解するためには、本願考案の棒状シースヒーターの用途が本願明細書に明記されていなければならないとは到底認め難い。

なお、前掲甲第四号証の一、成立に争いのない甲第四号証の二によれば、原告は、審判手続において、拒絶理由の第一項に対し、意見書中で本願考案の棒状シースヒーターが原子炉の模擬燃料棒に使用されるものである旨述べているにかかわらず、本願明細書にはその旨の記載がないことが認められるが、本願明細書に右用途の記載がないからといつて、当業者が本願考案の目的及び作用効果を理解できないということはない。

したがつて、拒絶理由の第一項で指摘した「本願考案の高電力密度の棒状シースヒーターは、どのような用途に使用されるものなのか記載がないから、明細書記載の目的、効果は理解できない。」との点は不備のままであるとした審決の認定、判断は誤つているものといわざるを得ない。

(二) 被告は、本願考案の棒状シースヒーターは発熱量の多い部分、発熱量の少ない部分、耐熱性、絶縁性を特に要求される部分を有する特殊のものであるから、右シースヒーターは通常のシースヒーターの類に含まれず、しかも本願明細書にその用途の記載がないので、本願考案の目的、効果が不明である旨主張する。

前記1項において認定したとおり、本願明細書において、本願考案は、(1a) 従来の棒状シースヒーターにおいては硬質心体と外装金属管との間の間隙むら、及び充填される絶縁物粉末の粒度むらや密度むらが生じることにより、棒状シースヒーターの長さ方向に不規則な放熱むらが生じていたため、これを改良し、(2a) さらに進んで、必要に応じてその放熱量を積極的にコントロールしてシースヒーター内部の温度をコントロールできる製品を提供することを目的とし、本願考案の要旨とする構成を採用したことにより、(1b) 右間隙むら、粒度むら、密度むらに基づく不規則な放熱むらを生ぜしめず、(2b) 放熱量を積極的にコントロールして棒状シースヒーター内部の温度をコントロールし、断線等の事故を防ぐことができるという作用効果を奏するものである旨記載されている。

ところで、右(1a)の目的は、棒状シースヒーターについて当然に解決が要望される技術的課題にほかならないものと認められるから、本願明細書に記載されている右目的、及び右目的の達成の成果である(1b)の作用効果は、通常の棒状シースヒーターについて設定される目的及びその達成の成果を示したものにすぎないものというべきである。そして、右(1a)の目的に沿つて棒状シースヒーターの発熱量、耐熱性、絶縁性が均一になるように製造しても、それを使用する態様いかんによつて、発熱量が均一でない状態(例えば、棒状シースヒーターの両端部の発熱量が少なく、その中間部の発熱量が多いような状態)が生ずるといつたような不都合が起こることは避け難く、また、高絶縁性や高耐熱性を特に必要とする部分(例えば、棒状シースヒーターのある部分に導性の部材が当接したり、あるいは高温物質が当接したりする場合が想定される。)を生ずることも十分考えられるところであり、そのために、本願考案は、(2a)の点を技術的課題とし、右目的に副う(2b)の作用効果を奏するものとされていることは明らかである。

してみれば、その挙示する前記理由により、本願考案の目的、効果が不明である旨の被告の主張は失当というべきである。

3 拒絶理由の第二項について

(一) 本願明細書に記載されている「発熱線が外装金属管に接続して漏電する虞がある」、あるいは「絶縁粉末の密度むらによつて放熱むらが生じる」ということは、前記1項において認定のとおり、従来の棒状シースヒーターが有していた問題点である。そして、棒状シースヒーターの長さに対して、外装金属管とその内部に挿入する硬質心体との間隙の幅寸法が微小なことから、硬質心体を外装金属管の中心に正しく保持することが極めて困難あるいは不可能に近いため、両者の間隙にむらが発生し、それによつて発熱線が外装金属管に接触して漏電のおそれが生じることは、当業者ならば当然理解できるところである。また、右間隙内に絶縁物粉末を充填する際に、従来の製造手段ではどうしても右粉末の粒度むらや密度むらが長さ方向に生じ、間隙むらの発生と相まつて棒状シースヒーターに放熱むらが生じることも、当業者において当然に理解できるところであるというべきである。

そして、本願考案は、右問題点を解消することを目的の一つとして考案されたもので、従来のもののように絶縁物粉末を右間隙に充填する代わりに、複数個の筒状の絶縁成形体5を成形しておき、絶縁成形体5をその内周面がヒーター4の外周に接するとともに、その外周面がシース6の内周面に接するようにそれぞれ密に挿入し、次いでシース6の外周を加圧減径して絶縁成形体5を破砕して絶縁層5Aの薄層を成形して成るものである。

したがつて、複数個の筒状の絶縁成形体5と、本願考案の前記目的との関係は明らかであり、その意味も自ずと明らかであるというべきであるから、拒絶理由の第二項前段で指摘した「実用新案登録請求の範囲に限定されている『複数個の……絶縁成形体』は、本願考案の目的として書かれている『発熱線が外装金属管に接触して漏電するおそれがある』、或るいは『絶縁粉末の密度むらによる放熱むら』とどのような関係があり、どのような意味があるのか不明。」との点は不備のままであるとした審決の認定、判断は誤りであるといわざるを得ない。

(二) 前掲甲第四号証の一によれば、本願明細書には、ヒーターの中で熱伝導の異なる部分、発熱量の多い部分、発熱量の少ない部分、及び耐熱性、絶縁性を特に要求する部分が、具体的にヒーターのどのような箇所に該当するのかについての記載はないことが明らかである。

しかし、前記のとおり、本願考案は、放熱量を積極的にコントロールできる製品を提供するという目的を有し、その目的に対応した構成を有し、効果を奏するものであること、棒状シースヒーターは、工業上加熱を要する各種の技術分野に広く利用され、その使用態様や使用箇所も一義的に決定されるものではなく、技術分野の特殊性に応じて種々の要求が存することも当然に考えられることからすると、本願考案の棒状シースヒーターは、前記のような各部分を設けたことに相応した使用態様や使用箇所を持ち、それを必要とする技術分野が必ず存在するものと認められる。

したがつて、拒絶理由第二項後段で指摘した「なぜ、ヒーターの中に、熱伝導度が異なる部分、発熱量の多い部分、少ない部分、及び耐熱性絶縁性を特に要求する部分があるのか不明。」との点は不備のままであるとした審決の認定、判断は誤つているものというべきである。

4 拒絶理由の第三項について

原告は、本願考案における絶縁成形体5は通常絶縁物粉体を焼結して形成する旨主張するが、前掲甲第四号証の一によれば、本願明細書には絶縁成形体5の製造方法については記載されていないことが認められる。

ところで、無機絶縁物の粉末を筒状に成形する場合、焼成手段を始めとして、圧縮結合手段(圧力をかけて固める。)や糊結手段(糊を用いて固める。)があることは技術常識に属する事項であるといつてよく、右製造手段が本願明細書に記載されていないことを理由に、絶縁成形体5の製造方法が不明であるということはできない。

次に、本願考案における絶縁成形体5はシース6の外周を加圧減径して破砕するものであるから、最終的には粉末状のものとなり、その点では従来の粉末充填物と同一であるが、前記1項に認定のとおり、従来の棒状シースヒーターに充填されている粉末状のものは同一の無機絶縁物が用いられ、部分的にその粒度や密度が異なつているのに対し、本願考案の棒状シースヒーターに充填されている右粉末状のものは、部分的に異なつた無機絶縁物が用いられているか、あるいは同一の無機絶縁物が用いられていても、その粒度や密度は均一になつている点で相違していることは明らかである。

したがつて、拒絶理由の第三項で指摘した「絶縁成形体はどのような方法で成形されるものであるのか、また、本願考案のように上記絶縁成形体を外周から加圧破砕してできたものと、従来のもののように絶縁物の粉体を充填してできたものとが、異なつた物として区別できるのかどうか不明。」との点は不備のままであるとした審決の認定、判断は誤つているものといわざるを得ない。

5 拒絶理由の第四項について

成立に争いのない甲第二号証(実用新案登録願書)によれば、右願書添付の明細書の第四頁第一七行ないし第五頁第一一行には、「次に絶縁成形体5を製造するとき熱伝導度の異る絶縁物例えばMgOやBN(ボロンナイトライト)、BeO(ベリリア、「BaO」とあるは誤記と認める。以下同じ。)、Al2O3(アルミナ)等で成形体515253……を成形しておきシースヒーターの全長の内発熱量の多い部分にはBNで成形した成形体52を使用し発熱量の少い部分にはMgOで成形した成形体51を使用する等、積極的に放熱量をコントロールしてシースヒーター内部の温度をコントロールして断線等の事故を防止することができるのである。又BeO(ベリリア)は高価ではあるが耐熱性、絶縁性に特にすぐれているのでシースヒーターの全長の内特にこの様な必要のある部分にBeO製の絶縁成形体53を使用すれば品質の良い棒状シースヒーターを得ることができる。」と記載されており、前掲甲第四号証の一によれば、本願明細書(全文補正明細書)第五頁第一九行ないし第六頁第一三行に同一の記載があることが認められるが、前掲甲第二号証によれば、前記願書添付の図面には、熱伝導の異なる絶縁物から成る複数個の絶縁成形物について具体的な表示がなされていないこと(別紙図面参照)が認められる。

ところで、願書に添付する図面には、考案の要旨とする構成のすべてを記載すべきであるという法的根拠はなく、図面は、考案の詳細な説明と相まつて、当該考案を当業者が容易に実施できる程度に記載されていれば足りるものと解するのが相当である。被告は、図示されていない部分は考案に含まれるかどうか疑問が生じる旨主張するが、採用できない。

本願考案における絶縁成形体5については、明細書の考案の詳細な説明に前記認定のとおりの記載があり、右考案の詳細な説明と願書に添付されている図面の記載を参酌すれば、本願考案の棒状シースヒーターの構成は十分理解することができるものと認められるから、図面に複数個の絶縁成形体の表示がないからといつて、本願明細書及び図面の記載に不備があるとすることはできない。

そして、本願考案が複数個の絶縁成形体を設けた趣旨は、棒状シースヒーターの内部の温度をコントロールして、放熱量を積極的にコントロールできる製品を提供するという目的を達成するためのものであることは、叙上説示したとおり本願明細書の記載から容易に認識し得るものである。

したがつて、拒絶理由の第四項で指摘した「(実用新案登録願書添付の明細書)第四頁第一七行ないし第五頁第一一行に記載されていることは、図示もなく、明細書記載の目的との関係からみても意味が不明。」との点は不備のままであるとした審決の認定、判断は誤つているものというべきである。

以上のとおりであるから、本件出願は実用新案法第五条第三項及び第四項に規定する要件を満たしていないとの理由で拒絶すべきものとした審決の認定、判断は誤りであり、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

硬質心体1に発熱線2を螺旋巻してなるヒーター体4に、複数個の熱伝導度の異るMgO(マグネツシヤ)やBN(ボロンナイトライト)、BeO(ベリリア)、Al2O3(アルミナ)等の無機絶縁物でなる筒状の絶縁成形体5を成形しておき、シースヒーターの全長の内発熱量の多い部分にはBN(ボロンナイトライト)で成形した絶縁成形体5を使用し、発熱量の少ない部分にはMgO(マグネツシヤ)を使用し、耐熱性・絶縁性を特に要求される部分にはBeO(ベリリア)を使用して、絶縁成形体5を絶縁成形体5の内周面がヒーター体4の外周に接するように密に挿入し、さらにこれをシース6に絶縁成形体5の外周面がシース6の内周面に接するように密に挿入し、シース6の外周を加圧減径して硬質心体1を破損しないようにして絶縁成形体5を破砕して絶縁層5Aの薄層を成形してなる棒状シースヒーター

(別紙図面参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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